はじめに
このページでは、ものづくり補助金申請のための「事業計画書」の書き方のポイントを解説しています。なお、計画書を作成するにあたって苦労をするのは設問項目「5.事業の具体的内容」からだと思いますので、このページではこの設問項目を書く上でのポイントについて解説していきます。
※なお、以下で解説する内容はあくまで参考情報です。審査が通ることを保証するものではありませんので、ご了承下さい。
STEP1 「革新的な試作品開発・生産プロセスの改善の具体的な取組内容」の書き方
ここでは実際に補助事業として「何を行うのか?」「どうやって行うのか?」を具体的に記載していきます。記述する内容としては技術的なことが多くなります。申請書の様式を見ると「その1:革新的な試作品開発・生産プロセスの改善の具体的な取組内容」という項目しかありませんが、これのみだと内容が伝わり辛いので、下記のような補足項目を追記しながら記載して下さい。(地域事務局によっては補足項目を記載した様式を準備してくれているところもあります)
1)会社概要
まずは自社の自己紹介をします。ここでは、今回の補助事業に関連することを強くPRするようにして下さい。
①事業内容
自社で生産している製品やその特徴。現在事業を行っている市場や顧客などについて書いていきます。製品を説明する際には写真などを活用してイメージがし易いようにしておきましょう。
②当社の強み
自社の強みを書きます。強みが書き辛い場合は「自社の特徴」や「これまで顧客から評価されたこと」という観点で考えていくとよいです。
2)事業の背景
今回事業に取り組むに至った理由について書いていきます。ここでは、「外部環境がこのようになった」→「一方社内の環境はこうなっている」→「そのため現在このような課題が生じている」→「よって、今回の補助事業に取り組むに至った」という流れが出来るのが理想です。
①外部環境
自社が事業を行っている市場や取引をしている顧客の動向。競合他社や技術的動向の過去から現在までの状況について書いていきます。
「当社が取引をしている○○業界では数年前から海外への生産拠点の移転が顕著であり、主要顧客の○○社からの受注量も海外生産の増加に伴い近年では減少傾向にある」といったような書き方です。
②内部環境
外部環境の変化を受けて社内の状況がどう変化しているのかを書いていきます。
「○○社からの受注量の減少を受けて、売上高も減少傾向にある」といった具合です。
③経営課題
経営環境の変化によって、今後取り組んでいかなければならない課題について書いていきます。
「当社では売上高を確保することが大きな課題となっている。よって、今回の補助事業に取り組むことによって新製品の開発を実施し、■■の市場に進出することにした」といった感じになります。
3)本事業の実施事項
補助事業として「何をして」そのためにどんな設備が必要となるのかを書きます。
書き方としては、「本事業においては■■という新製品を開発する。そのための試作品の生産のために▲▲社製の○○という設備を導入する」というようなことを書いていきます。
設備のスペックなどについても具体的に書いていきましょう。現状の設備との性能比較を入れても良いです。
4)12分野との関連性
中小企業庁のHPにある「特定ものづくりの基盤技術の高度化に関する指針」の内容を参照しながら、今回の事業が「どの技術を使って」「どのような顧客ニーズを満たし」「どのような高度化目標を達成していくのか」を書きます。
「国が進めている政策と合致していて、政策の推進にもこのように寄与しますよ」ということを書いて下さい。
5)事業を実施する上での技術的課題とその解決策及び目標
さて、ここが「革新的な試作品開発・生産プロセスの改善の具体的な取組内容」の項目の本丸です。ここの内容が非常に重要です。
注意しなければならないのが、ここの内容を「設備が無いことが課題です」→「だから、設備を導入することで解決します」ということのみにしてしまうと、「課題解決方法が設備の導入のみになっている」と言われて評価をされないということです。
ここで大切なのは「設備を導入した後にどのようなことを行うのか?」「どのような創意工夫をして問題を解決するのか?」ということ。つまり、「設備を導入した後の企業の努力」をアピールすることが必要だということです。少し難しいので、事例を使って説明していきます。
①技術的課題
例えば、NC旋盤を導入して切削加工の生産性を高めようとしたとします。その場合、いくら高性能の設備を導入したとしても、それだけで勝手に生産性が高まるわけではありません。製品を加工するためには加工条件を決めないといけません。すると…
「生産性の高い切削条件を決めなければならない」という課題が出てきます。一度に削る切削量をどうするのか?とか送りの速さはどうするのか?という問題です。
しかし、切削量を増やしたり送りを早くしたりすると、切削中にワークが振動(ビビリという状態)して精度が出ないかもしれません。振動を抑えながら切削スピードを速くしようとするとワークをしっかり固定するための冶具を作らなければなりません。もしくは工具の改造が必要かもしれません。ここで「冶工具を製作しなければならない」という課題が出てきます。
また、新しい設備を導入するとなるとその操作方法についての教育も行わないといけません。「従業員の教育」も課題となります。
このように、設備を導入したあとに何が起こりそうかを予測して課題を書いていきます。
②解決策
上記で書いた課題に対してその解決策を書いていきます。上記の事例で言えば…
まず、切削速度を上げてもワークが安定するような冶具を作ります。このとき、どんな冶具を作るのかを図表なども使いながら具体的に説明していきます。「冶具の形状はこのように工夫する」とか「設備への着脱をすばやく確実に行うためにこのような工夫をする」とかです。
切削条件に関しては「まずは現状より○○%高い速度で切削して品質を確認し、その後○○%刻みで速度を段階的に上げながらテストを行っていく」というような感じです。
人員教育に関しては、「メーカーや公共団体が行っている講習会に参加させてOff-JTを行う」「まずは教育係を育て、教育係を中心にOJTを行って他の従業員も段階的に教育していく」といったことを書きます。
③目標値
ここでは課題を解決する目標値を書いて下さい。定量化(数字で表せる)出来るものは数字を使って定量的な目標値を設定して下さい。
書き方としては現状と目標値の比較表を使って表現するとよいです。
6)本事業を遂行することで得られる優位性
本事業を遂行することで得られる優位性(他との違い)を書きます。
優位性を見つけるときのヒントですが、Q(品質)C(コスト)D(納期)の軸に分けて考えると優位性が見つけやすいです。
このとき競合他社などとの比較をすると優位性がよりアピール出来ます。
7)本事業の実施体制
社内外の役割分担を説明して、しっかりと事業が遂行出来る環境にあることをアピールします。
①社外との協力体制
事業を遂行する上での会社間の役割について書きます。このとき、下記のような図を用いると関連性が分かりやすいです。
②社内の実施体制
社内での役割分担を書きます。これも下記のような表を使うと分かりやすいです。
このとき「なぜその人を担当にしたのか?」という理由も書くと説得力が増します。
③当社の技術能力
これまでの自社の実績等を記載して「ウチの会社はこの事業を遂行するための能力があります!」ということをアピールします。
8)事業遂行のスケジュール
交付決定から事業完了まで(およそ1年間)の具体的なスケジュールを書きます。
①スケジュール表
まずは下記のようなスケジュール表を使って日程を示します。
②具体的な実施事項
スケジュール表の各項目について「誰が」「何をするのか」を具体的に書いていきます。
9)当社の財務状況と資金調達方法
ものづくり補助金では「財務状態は問題ないか?」「資金調達はしっかり出来るか?」ということも問われるので、この項目を書いておきます。
①財務状況
会社の損益状況について書きます。このときもし直近で赤字があれば、「なぜ赤字だったのか?」「その対応方法はどうするのか?」ということも書いておいて下さい。
②資金調達方法
どこから資金を調達するのか(自己資金か借入か)を書いて下さい。このとき借入をする場合はどこから借入をするのかも書いて下さい。借入の承諾が得られているのであればその旨も書いて下さい。
STEP2 「将来の展望」の書き方
ここでは、開発した製品や生産プロセスをどのように事業化して収益に結びつけていくのかが問われます。
1)市場の動向
補助事業を遂行することで開発する製品や生産プロセスを販売していく市場の今後の動向について書きます。
多くの計画が「今後成長は成長していく見込みである」という結論になると思いますが、大切なのはその根拠です。「こういう理由で市場は成長すると見込んでいる」という根拠をしっかり書いて下さい。
なお、根拠を作りこむ際には民間の調査会社や金融機関のレポートや経済産業省などが公表している統計データが参考になりますので、是非活用して下さい。これらのデータやレポートを参考にする場合は「○○のデータによると…」という形で出典を明記するようにして下さい。
2)顧客の動向
市場の動向が分かったら次は取引のある顧客の動向です。
まずはターゲットとなる顧客が誰かを明確にした上で、その顧客の動向を書きます。また、「顧客のニーズ」も重要です。
「当社がターゲットとする○○社は▲▲という理由で今後も成長が期待出来る。当社の○○という製品は■■という顧客のニーズを満たすものであるため、安定した受注が確保出来るものと見込んでいる」という書き方になります。
3)事業化に向けての取組み
①事業化のスケジュール
事業化に向けたスケジュール表を記載します。事業化のスケジュールは3~5年ぐらいの期間で何をするかを書きます。
②具体的な取組み内容
上記のスケジュール表の各項目について具体的に何をするのかを書いていきます。例えば…
1年目:設備導入~新製品開発
○○という設備を導入し、製品を開発する。
2年目:既存顧客へのサンプル納入
製品開発後は既存顧客である○○社に対してサンプルを納入し評価をしてもらう。
3年目:製品の改善及び既存顧客への営業
サンプル評価をもとに製品に改良を加えるとともに、既存顧客の○○社に対しての営業活動を本格的に実施する。
4年目~:新規顧客開拓
■■などの展示会に出展することで見込み客を確保し、本格的新規顧客開拓を開始する。
といった具合で具体的な活動計画を書きます。
4)損益計画
補助事業開始から5年間の損益計画を書きます。ここでは売上高や費用の積算根拠をしっかりと作りこんで下さい。
①売上
売上の目標を書きます。このとき売上の根拠を具体的に示し、「なぜ売上が伸びるのか?」「そのために何をするのか?」と言う事が明確に分かるようにして下さい。
②原価・経費
補助事業を遂行することで、原価や経費の変動が見込まれていればいくら変動するのかということと、その根拠も書きます。
売上面と原価・経費面の根拠が出来たら様式に埋め込まれている事業計画の表に数字を入れていきます。
STEP3 その他の項目について
ものづくり補助金には事業計画そのものに加えて他にも加点項目があります。対象となる項目がある場合は漏れなく記載しておきましょう。
1.賃上げ実施状況について
賃金を1%賃上げする計画を有する場合には加点要素となります。賃上げをする場合は是非記載して下さい。
2.TPP加盟国等への海外展開について
海外展開の計画がある場合はどの国に展開して、どのような活動を行うのかを書いて下さい。
3.経営革新計画について
経営革新計画を認定されている場合はもちろんですが、申請中の場合でも評価されます。ですので、余裕がある方は経営革新計画の申請も同時に行ってください。(経営革新計画については中小企業庁のHPを参照下さい)
4.経営力向上計画について
こちらも経営革新計画同様に申請を行っていれば評価されますので、是非取り組んでみて下さい。
6.IT化に取り組む企業について
生産管理システムなどを導入してIT化を進めている場合は評価されます。ですので、IT化を行っている場合はこの項目も忘れずに記載しておきましょう。
STEP4 仕上げ
最後に申請書を少しでもよくするためのコツを書いておきます。
①写真・図表・図面等を活用する
写真や図表などが上手く使われていると読む側に内容が伝わりやすいので、写真や図表などで説明出来る部分はこれらを活用して表現しましょう。
②専門用語には補足説明をつける
申請書を読む人は素人だと思って下さい。専門用語が使われていると理解出来ないことがあります。ですので、専門用語には注記をつけて解説をして下さい。
例えば、このページでも当然のように「送り速度」と書いてありますが、実はこれだけだと不十分ですですので、
※「送り速度」…加工物を切削するときの速さのこと。
といったような解説を加えて下さい。
③第三者に読んでもらう
第三者の方に一度読んでもらうことも大切です。第三者が読んで理解出来ないようであれば審査員の方も分からないと思って下さい。また、第三者の方に読んでもらって指摘を受けることであらたな気づきがあってより良い申請書が出来ます。
(もちろん、認定支援機関の方もアドバイスをしてくれますが、その前に別の人に読んでもらったほうがよいです)
最後に…
これまで当事務所では何十社もの企業様の補助金申請のアドバイスをさせて頂きましたが、その中で「今回補助金が取れてよかったけど、それ以上に申請書を書くことで自分の会社の事業を見直したり整理することが出来てよかった」というお声を数多く頂きました。中には「今回補助金の申請はしないけど、計画書はまた書いてみた。アドバイス貰えないかな?」というご依頼を頂くこともあります。
もちろん補助金申請をする以上、補助金を獲得することが大きな目的ではありますが、他にも大きな成果を得られることがあります。折角のよい機会ですので、「ちょっとやってみようかな…」と考えられている方は是非取り組んでみて下さい。
当事務所では補助金申請に取り組む方向けの支援サービスを提供しています。
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